研究業績の要約と今後の展望

芝 治也


研究の背景

私は徳島大学大学院在籍中より、表面ポラリトン 1 (Surface Polariton:SP)の 分散関係及びその伝搬特性についての研究を行なってきた。

 SPとは、金属などの光学活性 媒質と空気や誘電体のような光学不活性媒質から なる境界があるとき、界面に励起される界面に局在したモードのことであり、これは 界面に入射された電磁波と、界面に存在する素励起とが結合して励起される。
 界面に励起したSPは界面から媒質の内部に向かって指数関数的に減少するフ ィールドパターンを持っており、界面に沿って指数関数的に減衰しながら伝搬する 性質を持っている。SPは界面に強く局在しており、界面でのSPの電界強度は入射 電磁波の1000倍以上にもなる。

 SPを非線形媒質へのエネルギ注入に用いると、導波光や直接 光を入射する場合に比べて、格段に効率の良い光スイッチング素子が実現できると いうことが Okamoto 2 らにより予測されている。 ところがその様な光学素子の実現に不可欠なSPの基本特性について系統立て て研究した報告は余りなく、理論ばかりが先行した形で議論がなされてきた。

 私はSPの基本特性を明らかにすることを目的とし、なかでも伝搬特性に注目し て研究を行なってきた。


研究要約

私の行ってきた研究は大きく3つに分化できる。
  1. SPの分散計算 3
  2. SPの伝搬距離測定法の確立 4
  3. SPの伝搬距離の決定要因の解明 4

1)分散計算

SPの特性は界面構成媒質の誘電率、構成に大きく依存するので 、実験構成に あった構造で励起されるSPの分散計算は欠かすことができない。そこで、ワーク ステーションを用いて、SP励起のために必要なプリズム(BK-7)、金属(Ag)、空気か ら成る3媒質構造において、金属膜厚を変えては複素ニュートン法によりSPの分 散解を数値解析的に求めた。

 その結果、表面に電磁場が局在する表面モード(SM)と界面から離れるほどに電 磁場が広がる仮想モード(VM)があることが明らかとなった。またSM、VMいず れもAg膜厚に依存し、それぞれの伝搬距離はSMは、あるAg膜厚で無限大に発散 し、VMは膜厚の減少にともなって短くなることが分かった。

 フレネルの反射率計算および全反射減衰(Attenuated Total Reflection:ATR) 法による反射率測定結果との比較から、実際に観測されるモードはVMの性質を反 映していると結論づけることができた。

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2)伝搬距離測定

SPは、指数関数的に減衰しながら、界面を伝搬して行く。ここでSPのエネル ギが1/eになるまでの距離を伝搬距離と定義すると、金属-空気界面での伝搬距離は入 射光の波長に依存し、波長632.8nmでは1μm、10.6μmでは1cm程度になる。

 伝搬距離の測定は平坦ガラス基板上に真空蒸着により作成したCu試料を用いて、 試料上にSP励起用、検出用の2つのプリズムをおき、検出側のプリズムの位置を変 化させてはプリズムからの出射光強度を記録する2プリズム法によって行なった。 これにより波長10.6μmにおけるSP伝搬距離が1〜3.5cmの間で実際に測定する 事ができた。

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3)伝搬距離決定要因

SPは伝搬の過程において金属による誘電損失、表面界面の凹凸と結合して波数 変換がおこり空気中に再放射される放射損失をうける。 5 これらの影響を明らかにす るために1枚の平坦ガラス基板を2つの領域にわけ、その片方にだけCaF2を蒸着、 その後全面にCuを蒸着した試料を用意し、それぞれの領域で伝搬距離の測定を行な い比較検討を行った。

 平坦ガラス基板上のCuと比較して、CaF2下地膜を持ったCuの表面には大き な表面凹凸が生成されるので 6 放射損失が強調される。これにより伝搬距離はCaF2 膜厚の増加にともない減少した。

 Cu膜の誘電率の表式として自由電子モデルを採用する事によって、波長0.8〜1.5 μmでのATR測定結果から10μm帯でのCu誘電率を決定し誘電損失の評価を行 うことができた。

 その結果平坦ガラス上のCuの伝搬距離は誘電損により決定づけられ、誘電率は膜 作成時の蒸着速度に依存している事が分かった。またCaF2下地膜の影響でCuの 誘電率が変化しており、この誘電率を用いて誘電損失、放射損の区別をせずに伝搬距 離が評価できる事を明らかにした。

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今後の展望

分散計算から各構造におけるSPの諸特性を理論的に検討する事ができる様に なったので、より効率のいいSP励起構造について検討していく。

 またSPの伝搬特性が、試料の誘電率のみで評価できる事が明らかにできたので、 SPを非線形光学スイッチング素子などに応用する際の基礎が測定評価法も含め て確立できた。 今後はSP利用素子の実現およびSPを使った物性計測法開発を目指する。


参考文献

  1. A.Otto : Surface Polariton, ed. V.M.Agranovichi and A.A.Maradudin(North Holland,Amsterdam,1982)P.177 Return
  2. T.Okamoto,M.Haraguchi and M.Fukui : J. Phys. Soc. Jpn. 61(1992)1549 Return
  3. H.Shiba,Y.Inoue,M.Haraguchi,M.Fukui : J. Phys. Soc. Jpn. 63(1994)326 Return
  4. H.Shiba,M.Haraguchi,M.Fukui : J. Phys. Soc. Jpn. 63(1994)1400 Return
  5. D.L.Mills:Phys. Rev. B12(1975)4036 Return
  6. F.Varnier,N.Miyani and G.Rasigni: J.Vac.Sci.Technol. 7(1989)1289 Return

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